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ウチのこどもは『左利き』

副院長です。皆さんお元気ですか?

最近当院に来てくれた、若いけどとても一生懸命な助産師さんがいらっしゃっいます。ある時、その助産師さんが記録を書いていて気付いたのですが、いわゆる『左利き』だったんですね。

助産もスイスイ行っていますし、話を聞いたら(わすれたんですが)どうやら左手は字を書いたりするメインではある様ですが、結局どちらの手でも色々出来るみたいです。

そういえば、今まで接した赤ちゃん達は今どうなっているんだろう?と気になってきました。子育て中のパパさんママさんは、わが子が『左利き』と分かったらどうしますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

という事で、今回は左利きの事について書こうと思います。日本ではおよそ10%くらいとされる、このとても素敵な個性について色々調べてみましたよ。

長くなりますから、おヒマな時に読んで下さい。

 

1. いつ利き手が決まるのか?
色々調べてみましたが、決定打はありませんでした。

まずは利き手の研究としてよく引用されているのが、アメリカの小児科医であり発達心理学者のアーノルド・ゲゼルの研究です。ルイーズ・エイムスと共に利き手の研究をして1947年にThe development of handednessという論文にまとめています※1。

この内容をすごくザックリまとめると、乳幼児期に色々左右の手を使ってみて試行錯誤しながら、だいたい4歳くらいで決まる(決める⁈)という結論でした。ただ利き手の決定は3歳くらいとする研究や、9ヶ月くらいとするものもあって※2,3、よく分からないです。いつのまにか、自分でオレ(ワタシ)は左利きだったよーと気付くという場合が多いみたいですね。

 

2. 左利きは遺伝?ママのお腹の中ですでに決まっている?

以前から言われていた事ですが、遺伝が関係しているのでは?との話があります。イギリス王室なんかはみんな左利きみたいですね。この話題に関して、最近ちょっと進展がありました。

オックスフォード大のウィリアム・ブランドラー率いる研究チームが、3300人の被験者に利き手を決める作業をしてもらい、その被験者のゲノムのうち10万個以上の共通の変異を調べたのです。その結果、PCSK6という遺伝子が利き手の決定に強く関係していることを特定しました※4。
この遺伝子は、体が発達する過程で心臓は左とか、肝臓は右といった左右の違いを決めるのに重要な役割を果たしているらしいです。ただし、利き手の決定には他の要因がたくさん絡んでいる可能性が高く、利き手を決める遺伝子としては決定打にはならないみたいですね。

色々調べていたら、産婦人科医としてはとても興味深い研究もありました。僕が外来でお腹の中の赤ちゃんを3/4D画像で見ていると、よく指しゃぶりをしている子がいます。
で、くわえている方の手が『利き手』になっているかもしれない、という報告があるのです※5,6。

言われてみて思い返すと、右手をしゃぶっている割合が多いような気がしますが、個人的にはたまたまだと思っています。

もし、左の指しゃぶりをしているエコー写真をお持ちのお母さんがいらっしゃったら、成長したお子さんの利き手がどちらか教えて下さい!

 

もう一つ面白い説があります。一卵性双生児に特有な現象として「鏡面現象」というのがあります。いろんな表面的な性質が、双子の2人で左右逆転するというのです。例えば、つむじ、指紋の渦の向き・利き手などがそうです。つまり、左利きで生まれてきた人は、本当は一卵性双生児の片割れで、母親の胎内で消滅してしまった右利きの兄弟が実際はいたのだ、という「一卵性双生児・鏡面現象仮説」です。
これも一卵性の双子を産んだママさんがいたら、教えて欲しいですね。お二人の子供の左右の利き手は違ってますか?

 

3. 矯正しなきゃいかんのか?

昔は『左利き』はあんまり良い印象が無かったみたいです。宮澤賢治の有名な作品『セロ弾きのゴーシュ』の「ゴーシュ」という言葉ですが、フランス語で「左」という意味になります。西洋では「左」はかなりマイナスの意味があったようで、英語圏で「ゴーシュ=不器用な」という意味で使われるみたいです。

日本では、本来「左」は良い意味で使われていました。左は日の出の向きとされ、大臣も左大臣>右大臣だったのです。その他には相撲でもその名残があり、土俵を正面から見て左側が格上の「東」で右側が「西」です。

それが歴史のどこかであんまり良い風に使われなくなり、「左遷:お仕事で発生するあんまり良くない事」「左前:運が悪くなること、経済的に苦しくなること」「左道:正しくない道、邪道」など、左にまつわるネガティヴな言葉が現代にもいくつか残っています。

今はもう左右差別は見かけないので、なんとなくそういった意味では矯正っていうのは必要ないと思います。

 

ただし、多数派の右利きが有利な場合が多いのも事実です。

それはハサミなんかの道具を使う場合です。大工さんや整備士さんもそうかもしれませんが、医者の中でも外科系と言われる診療科を選んだ場合、昔は「左利きは外科医になれない!」と声高に仰るエラい方もおられました。確かに手術に限って考えると、1人だけで行う場合(あり得ませんが)は良いのですが、通常は右利きの術者であるという前提で、多くのスタッフや様々な機器が配置されます。手術に使う道具も、自分で特注しない限り左利き用はまず用意されていません。

 

ドラマでよく見かける、緊急時の呼吸を確保する医療手技に「気管内挿管」というものがあります。他の組織を傷つけず、適切な深さでチューブを確実に気管内に入れなければなりません。その時に使う喉頭鏡という道具は左手で持ち、重要な気管チューブは右手で持つのが前提になっています。緊急時に使用する物なので左利きだから…なんて通用しないのです。ちなみに左利き用の喉頭鏡(右手で持つ用)は世の中に存在はしているようですが、僕は見た事がありません。

 

ただ、最近とても主流になっている内視鏡手術や今後重要な位置になっていくであろうロボット手術では、左手も思いのまま自由自在に動く人が圧倒的に有利な気がします。どちらの手術でも、左右の手が同時にかつ正確に動かせないと上手くいきません。

ですから右ばかり発達してる人よりも、左利きであったものの右手も使えるようになった人の方が手術が早く上手になるかもしれません。

 

子どもが成長して、なりたい職業がおぼろげに見えてきた時にその仕事がどうやら左利きでは少し不利かも、という時はパパさんママさんが右手も使えるようにトレーニングに協力してあげましょう。

 

4. まとめてみます…

左利きの子は芸術に優れているとか、天才肌だけどワガママだ、大人になって不利だとか色々言われますが、一番ダメでかわいそうな事は親から猛烈な矯正を強いられるケースがある事というです。

 

結論から言うと『左利き』の場合は矯正の必要はないけど、右手も使えるようになると最高に有利だよね!というのが僕の考えです。

楽しく優しく、右手で色々させてみるのは良いかもしれませんね。右利きの子は大人になるまで(大人になっても)特に不自由がないので、わざわざ左手を使うトレーニングをする機会はありませんから、大人になって両方使えるようにはまずなりません (特殊なケースは除きます)。

 

90%のお子さんは望んでも左利きにはならないので、まさしく神に選ばれし才能ですね。左利きの子には、両方の手が使えるという無限の可能性があるのです。

 


※1 Gesell, Arnold, and Louise B. Ames. “The development of handedness.” The Pedagogical Seminary and Journal of Genetic Psychology 70.2 (1947): 155-175.
※2. McManus, I. Chris, et al. “The development of handedness in children.” British Journal of Developmental Psychology 6.3 (1988): 257-273.
※3. 塩谷裕香, et al. “4 カ月および 9 カ月の乳児における上肢運動の偏側性.” 脳と発達42.4 (2010): 287-290.
※4. William M. Brandler, Andrew P. Morris, Silvia Paracchini, et al. Common Variants in Left/Right Asymmetry Genes and Pathways Are Associated with Relative Hand Skill. PLoS Genetics, 2013; 9 (9): e1003751 DOI: 10.1371/journal.pgen.1003751
※5. Hepper, Peter G., Sara Shahidullah, and Raymond White. “Handedness in the human fetus.” Neuropsychologia 29.11 (1991): 1107-1111.
※6. Hepper, Peter G., Glenda R. Mccartney, and E. Alyson Shannon. “Lateralised behaviour in first trimester human foetuses.” Neuropsychologia 36.6 (1998): 531-534.

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