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授乳中に妊娠が判明したら…

お久しぶりの更新ですが、副院長です。

今回はなかなか賛否両論が起きやすいテーマを取り上げたいと思います。以前にも当記事内で書こう書こうと思っていたのですが、ちょっとサボっていました。今回はズバリ、妊娠が分かったらおっぱいは続けていいのか、ダメなのかという内容です。

まず母乳の優れている点については、ありとあらゆるメディアで紹介、解説されていますので割愛します。とにかく母乳自体の性能が良いのはもちろんの事、お母さんが赤ちゃんにおっぱいをあげるという行為そのものが母児の関係性を深める素晴らしいものですからぜひともおっぱいをいっぱいあげて頂きたいと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

ただ、おっぱいの出方は個人差がありますし必要に応じてミルクを足すことは僕は問題ないと思っています。むしろ赤ちゃんがお腹が空いているのに、母乳がたくさん出るようになるまでお母さんが歯を食いしばって頑張るのは赤ちゃんとママ双方にとって少し疲れてしまう事かもしれません。

この辺の話も賛否両論ですからこの辺でやめておきますが、最近見つけたこのネット記事には考えさせられるものがありました。もちろん完全母乳を目指し、楽しんで頑張る事ができればそれはとても良い事だと思います。

『母乳は出なくても大丈夫だよ / 完母へのこだわりに縛られないで』 baby NETより

 

さて本題に入ります。実は以前に当院のFacebookで同様の記事を書いたのですが、再編して書こうと思います。

まず授乳中に妊娠がわかった場合の対応についてです。助産師さんのブログや、母乳推進派の方は、少なくとも2歳まで飲ませた方が良い、なんなら5歳くらいまでは授乳した方が良いといったWHOの提言もあり「授乳は止める必要は無い」「そんな事を言う医者は、ナンセンス」といった論調の記事を散見します。

また、断乳否定派の方々の根拠となっている浜松の産婦人科の先生の2009年に発表された論文があります。
流産「妊娠中の授乳」と無関係 日本産婦人科学会誌:2009 

以下は毎日新聞のweb記事に掲載された主な内容と論文の紹介です(現在は見られません)。

石井第一産科婦人科クリニックの石井広重院長は、96~00年に同院で第2子の妊娠が確認された20~34歳の女性のカルテをもとに流産数の差異を後ろ向きに解析。

対象)第1子が満期産(妊娠37週以上42週未満に出産)で流産の経験がない人で、授乳中だった110人と、授乳していなかった774人

結果)授乳群で流産は全体の7.3%に対し、授乳しない群は8.4%で両群に有意な差はなかった。
石井院長は、「母乳育児は母子双方にメリットがあり、禁止はすべきでない」と述べている。

この論文は、過去の患者さんのデータを振り返りカルテデータから抽出した研究で、いわゆる「後ろ向き研究(症例対照研究)」と言われる手法によるものです。この「後ろ向き研究」はエビデンス(証拠)レベルは弱く、バイアス(統計的な偏り)が入りやすいので、これを根拠に自信を持って患者さんに説明する事は担当医としては躊躇されます。

 

 

 

 

 

確実に辞めなくて良い、辞めた方が良いという明確なエビデンスを提示するためには、かなりの数の患者さんを妊娠が判明した時点で、妊娠初期に断乳した群と授乳を続けた群の2グループに分けて、グループ間で妊娠継続の結果の差がどうなるか?という研究検討が必要になります。このような調査方法を「前向き研究」といいます。また、さらにランダマイズ化(無作為化)が出来ればさらに強い根拠を持つ研究となります。

しかし、こういった患者さんに不利益を与えるかもしれない研究は、実際に行う事は倫理的に事実上困難です。

ですから、先程提示した研究報告はエビデンスレベルが弱いため、あまり産婦人科医の中で浸透していないのです。「授乳続けても良い」という論拠は、結局「授乳と初期流産の因果関係が示されていない→辞める必要は無い」というロジックによるものです。

しかし、授乳や乳頭刺激によりオキシトシンというホルモンが分泌され、子宮が収縮するのは明らかで、それが要因となる切迫流産症状が出てくる可能性は充分にあります。この授乳による子宮の収縮というのはまさに人類の神秘で、産後の緩んだ子宮を速やかに回復させ、出血を止めるために備わっている機能なのですね。ただ、この機能が妊娠している子宮及び胎児に対して、どのような影響を与えているかは未だ明確になっていません。

 

 

 

 

 

 

 

私たち医療従事者は「リスク要因」をいかにして排除するかを最優先に考えますので、妊娠中の授乳は安全かはわからないけど、理論上子宮が収縮するのは明らかで流産リスクになり得る、という風に考えるのですね。

「大丈夫だよ。妊娠してても、オッパイあげて!可哀想でしょ。流産するなんて証拠はないんだから」といったセリフは、僕は言えません。流産しない証拠もありませんからね。リスクがあるのも事実ですし。

また、妊娠悪阻(つわりですね)や授乳による睡眠不足もある中、妊娠初期の胎芽に必要なホルモン分泌が不足する事も想定しなくてはいけません。

 

結果としては妊娠が分かった場合におっぱいをやめるべきか、続けても良いのかという問いに対しての明確な答えは出ていません。ただ、僕は「できればやめたほうが良いと思います」と外来で患者さんにお伝えしています。

 

 

 

 

 

 

初期流産は正常に妊娠が成立しても約10%~20%で起こり得るものですが、受精卵の段階で問題がある場合がほとんどとされています。ただし授乳を継続していて不幸にも流産という結果になった場合、おそらく授乳継続していたお母さんは「オッパイをあげていたせいだ…」と考える方が多いように思います。

一部には「そんな事ないよ。オッパイあげていたからではないよ」と言っている医療者もいるようですが、僕は根拠がない事は言えませんので、なんとも言えない気持ちになってしまいます。

後はお母さんの判断です。
「先生が何と言っても、続けます」これも一つの考えでしょう。上手くいけばギャンブルに勝った、という事です。

僕は医師として、ギャンブル要素がある医療行為は医療では無いと考えています(充分な医師の説明と患者さんの同意があれば全く別ですが)。明確な根拠の無い、患者さんにとって優しい情報(悪い言い方をすれば、なんとなく耳触りの良い都合が良い情報)を信じてしまった結果、不幸な転機を招く事は悲しい事ですし、僕自身も後悔するでしょう。

賛否ある内容である事は承知しています。僕は「リスクがあるかもしれないから、断乳して下さい」と言うだけです。
後はお母さん方みなさんが、様々な情報を収集して判断して頂ければ良いと思っています。

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